これは20世紀のはじめ、まだ胃カメラがない時代にアメリカで起こった話です。トムはアイルランド出身のニューヨーク市民で、9歳の時にあやまって熱いクリームチャウダーを飲み、食道にひどい損傷をうけてしまいました。この傷のために、トムは胃に穴をあけてチューブを出し、一度口でかんだ食べ物を自分で胃に直接、この開口部から入れなければならなかったのです。だからトムの胃は外から見ることができ たのです。
医師は繰り返しトムの胃を観察しているうちに、トムの気分により胃壁の色調が変わることに気づきました。気分のよいときには胃は美しいピンク色をしていますが、何か気に入らないことがあり、怒っているときには胃壁は顔色と同じように胃も赤くなり、恐怖を感じると顔色と同様に胃も蒼白になったのです。トムが怒りを感じた時には、血液の供給が増加し、胃の粘膜が充血して、酸の分泌が高まるのですが、胃の粘膜が蒼白になると酸の分泌活動と筋の活動がともにだんだんおとろえてくるのでした。そのようなことから、心理的な変化に応じて、胃の血流が変化することや胃酸の分泌に影響が与えられることが分かってきました。
この観察からわかるように、人間の心と体というのは連動しています。人間の気持ちや感情が体に表れるのです。ストレスや疲れから胃かいようや頭痛・肩こりになる人が多いことからもわかると思います。病院の内科に通う患者さんのうち、40%は心の問題から体に悪影響を与えているというデータもあります。多くのみなさんがそれを経験されているでしょう。
しかし、みなさんはその逆の連動を考えたことがあるでしょうか。「辛い時や落ち込んだ時にプラスの気持ちや感情を持つことによって体が元気になる」というプラスの連動です。たとえば、悲しい時に一人で涙にくれると、よりいっそう悲しみは深くなり、体も重くなります。しかし、悲しい時に無理やりにでも笑顔をつくると体が軽くなり、気持ちも元気になるのです。悲しい時にこそ、笑ってみましょう。そうすれば、元気が出てきて、自然に体も軽くなります。「ストレス学説」の生みの親であるカナダの生理学者ハンス・セリエ博士も「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」と言っています。 みなさんも落ち込んだ時にこそ、笑顔をつくって笑ってみましょう。それが無理というのであれば、笑顔をつくる場所をつくりましょう。自分の好きな場所で、好きなことをやって笑顔をつくります。そして、気分を整えた上で、「よし、やるぞ」と自分を励ます言葉を口にすれば、やる気がわいてくるはずです。「どんなことがあっても楽しまなきゃ!」とはタイガーウッズの言葉ですが、彼はこの言葉で自分を元気づけるそうです。このように、気持ちの落ち込んだ時には、とにかく明るく振る舞うことです。上機嫌のふりをしているうちに、人間はそのように振る舞えるようになります。落ち込んだ時や苦しい時など、むしろ苦しいからこそ、快活に行動すべきなのです。これこそが、明るさをとり戻す近道なのです。 |