今回は五木寛之さんの著書「人間の関係」の冒頭の項にある「鬱(うつ)からぬけだ
すための三冊のノート」に載っているお話をご紹介します。
五木さんは今までの人生で3回の鬱状態を体験したそうです。最初は40代の後半か
ら50歳にさしかかった頃でした。何をしても興味がわかない、何を見ても聞いても
面白くない、という鬱な気分に襲われました。ある時、ふと考えついて、1冊のノー
トをつくってみました。「歓びノート」という日記帳です。1日のうち何か1つ、こ
れはうれしかったという事を見つけて記録するのです。かならず最後の1行は「うれ
しかった」と締めくくります。例えば「今日はネクタイが1度でキレイに結べてうれ
しかった」とか、どんなつまらない事でもいいのです。どんなに考えても浮かばない
場合は、「今日一日、無事に過ごせてうれしかった」と書きます。しばらく続けてい
たら不思議と鬱状態が消えていく気配があったそうです。
やがて、50代も過ぎ60歳をむかえました。男の更年期とでもいうのでしょうか、
再び気分が晴れず鬱々とした日が続きました。前のときの「歓びノート」を試しまし
たが、今度は成功しませんでした。ふと、ひらめいて今度は「悲しみノート」を用意
しました。1日のうちで、もっとも悲しかった事を思い返して、最後の行は「悲し
かった」で締めくくるのです。しばらくして、自分の心が少しずつ揺れ動きはじめる
のが感じられました。「悲しかった」と締めくくることで、気持ちが解放されるような、風がふっと吹きすぎるような気配を感じるようになったそうです。そして、よろこぶことと悲しむことは、両方とも心の大事な働きなのだと感じたそうです。
三度目の鬱は70歳を過ぎた頃でした。今回は、人と会うのもおっくうでならないく
らい相当な重症でした。そんな時思いついたのが「あんがとノート」でした。1日に
1行、なにか「ありがたい」と感じた事をノートに書く、特別に何も無いときは「一日無事に過ごせてありがたい」と書きます。1ヵ月もしないうちに雲が晴れるような
気分になったそうです。
五木さんは鬱からぬけだすために、この三冊のノートをすすめています。特に「あん
がとノート」は究極の鬱からの脱出法だと彼は言っています。「あんがとノート」を
書きはじめてあらためて考えてみると、自分の周りはありがたいことばかりで、どれ
を書こうか迷ってしまったそうです。世界で初めてストレス学説を提唱した、カナダ
の生理学者ハンス・セリエ博士も「ストレスから逃れるのに一番大切なことは、感謝
の心を持つことである」と言っています。感謝は心の傷を癒す最も効果的な態度と言
われています。みなさんも「あんがとノート」を試してみませんか。(終)
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