今回は、人間の耳が持っている素晴らしい機能についてお話しします。心理学用語に「カクテルパーティー効果」という言葉があります。カクテルパーティ
ーのような騒がしい場所で人と話していると、周囲で話している人の声はほとんど頭に入らないのに、自分が話している相手の声はなぜか聞き取ることができます。このように、数多くの声や音の中から自分に必要な声や音だけを選んで聞きとることができることを「カクテルパーティー効果」といいます
人間の耳は人の声を「聞くか」と「聞かないか」を選ぶ、つまり「聞き分けを
する」機能を持っています。10人から同時に話しかけられて、9人が自分に
全く関係のない話をしていて、1人だけが自分のことについて話をしていたと
したら、その1人の話だけを聞くことができます。聞きたいことを選んで聞くことができる一方で、聞きたくないことは聞かないこともできます。
確かに、自分が聞きたくないことを聞かないことができる、つまり人の声を
「聞き流す」という機能も大切です。街中で自分には関係ない人が話している声や仕事で集中しているときに近くで話している人の声を一日中、全部聞いていたら大変でしょう。もしも、人の声を聞き流すことができなければ、人間は生きていけないかもしれません。人の声を聞き流すことは、ストレスコントロ
ールとしても重要なのです。
ただ、人間の耳は人の声を「聞き分けをする」機能を持っている一方で、絶対に「聞き分けをする」ことができない、つまり「聞き流す」ことができない声
があります。それは自分の声です。当たり前ですが、自分の発した声は自らの耳で聞くことになりますが、自分の声は人の声と違って、「聞くか」と「聞か
ないか」を選ぶことができないそうです。つまり、人間は自分の発した声は必ず自分の耳に入ってしまい、それを自分自身で聞くことにより、その言葉の意味を脳で考えたり判断したりして、新しい気づきが生まれたり考えがまとまったりするのです。このような耳の機能のことを「オートクライン」といいます。
みなさんも会議などで自分が意見を述べているときに、話しながら「(もっと
いいと思う)こんな意見もあったな」、「やっぱりこの意見は間違っているな」
などと気づくことはありませんか。これが「オートクライン」の効果です。自分が話している声を自分が聞くことで、その意味を脳で考えたり判断したりし
て、新しい気づきを得ることができるのです。
また、悩みの相談(カウンセリング)にも「オートクライン」の効果は認められます。相談者(クライアント)が自分の悩みを話すと、その声が自分の耳に入り、その言葉の意味を脳で考えたり判断したりすることで自分の考えが整理されていき、悩みの解決につながっていくというのが悩みの相談(カウンセリング)の効果です。さらに、部下や後輩の指導である「コーチング」は相手に質問をして相手に自己決定をさせる、つまり答えを導く指導法ですが、これも「オートクライン」の原理です。相手に質問をして答えさせ、その声を自分の耳から聞くことで、その言葉の意味を脳で考え、相手が自分の行動を決定していくのです。
そして、この「オートクライン」が一番効果を発揮するのが、「人の言うこと
を聞かない相手」を説得するときです。たとえば、職場の中で「あまり人の言
うことを聞かない」または「周りの人と協調性のない」社員や職員がいたら、
本人に「〜してください」、「みんなで〜しましょう」と伝えても「聞き流す」
ことが多くなると思われます。そこで、その本人を朝礼などでみんなの前に出して、自分の周りの人に対して「〜してください」、「みんなで〜しましょう」、
「〜することは大切です」、「〜というルールを守りましょう」と言わせると、
自分の言った声が自分の耳に入り、嫌でも自分の言った言葉の意味を脳で考えたり判断したりして、新しい気づきが生まれて行動を変えていくことにつながるのです。私も人を説得するときに「オートクライン」の原理をうまく使っています。みなさんも是非お試しください(終)。
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