今回は、自分の「思い込み」が身体に与える影響についてお話しします。笠巻勝利氏の著書「眼からウロコが落ちる本」に次のような話が載っています。
1883年、オランダにおいてブアメードという国事犯を使って一つの実験が行なわれた。表面上、一人の人間からどれだけ血液をとったら人間は死ぬものかというものである。医師団は、ブアメードをベッドの上にしばりつけておいて、その周りで話し合いをする。「三分の一の血液を失ったら人間は死ぬでしょう」という結論に達した。医師団は、「これから実験をはじめます」といって、ブアメードの足の親ユビにメスを入れた。用意してある容器に血液がポタポタとしたたり落ちはじめた。数時間が過ぎた。医師団は「どれぐらいになりましたか?」「まもなく三分の一になります」と会話する。それを聞いたブアメードは静かに息を引きとったという。実は、医師団は心理実験をしていたのであった。ブアメードの足にメスを入れるといって痛みだけを与えたのである。ブアメードはメスで切られるといわれれば、それこそ、ちょっとした痛さでも、メスで足を切られたと思うだろう。容器に用意しておいた水滴をたらしていたのであった・・・。
この実験では、ブアメードの血液はただの一滴も流れていません。医師団は実験前に「三分の一の血液を失ったら人間は死ぬ」という暗示を彼に与え、彼の指に痛みだけを与え、ただひたすらに水滴を落とし、あたかも血液が流れ出しているかのように思い込ませたのです。この否定的な暗示によって彼は命を落としたのです。この実験は「人間は思い込みによって自らの生命機能をも停止させられる」ことを証明付けたとされています。このように、自分の「思い込み」が身体にマイナスの影響を及ぼすことを「ノーシーボ(ノセボ)効果」といいます。
以前ご紹介した「クーエの自己暗示療法」のコラムで、効かないはずの薬が
「この薬を飲めば、病気は必ず治る」という思い込みで治ったという話をしま
した。自分の「思い込み」が身体にプラスの影響を及ぼすことを「プラシーボ
(プラセボ)効果」といいますが、「ノーシーボ効果」はその逆です。「薬を飲めば、副作用が出る」などと副作用を心配しすぎると、全くそんな効果のない薬でも自分の「思い込み」で副作用が出てしまうような効果のことです。
ウィルスや細菌やがん細胞など原因がはっきりしている身体疾患の場合は、その原因に効く薬物を投与する治療の中心になると思いますが、ストレス関連疾患(心身症)や精神疾患などは原因がはっきりしていないため、治療の前に医師が患者の仕事や生活の状況や患者が困っていることなどを良く聴き、そのうえで治療方法を決める必要があると思います。ところが、多くの精神科や心療内科やメンタルクリニックでは、別に血液検査やレントゲン撮影をするわけでもなく、カウンセリングを施すわけでもなく、簡単な問診だけで「気分が落ち込む」「眠れない」などの症状だけを改善するための薬物を投与する治療を行っている、いわゆる「3分診療」になっています。
これでは、患者が治療法や医師自身に信頼を置くことができなくなり、もしも
薬に対する具体的説明もなければ、投与された薬も「本当に効くのだろうか」
という思い込みが発生してしまい、まさに「ノーシーボ効果」で病気が治癒しなくなったり、悪化したりすることになるでしょう。私は決して医師を批判し
ているのではありません。治療を受ける患者自身が「自分がその病気の治療法を知り、その上で医師を信じることができるか」と考える視点がとても重要だと思うのです。いずれにしても、ストレス関連疾患や精神疾患などの治療は、もっと医師が患者の話を聴く時間を増やし、医師と患者が信頼関係を築いていくことが必要だと思います(終)。
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