安全JAWSちゃんのハートLetter
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ストレス対処能力「SOC」(その1)

みなさんは体の健康を扱う「医学」が戦争とともに発展してきたのと同様に、 こころの健康を扱う「精神医学」や「心理学」も戦争とともに発展してきたこ
とをご存知でしょうか。戦争時の怪我や感染症などの病気の治療や予防をする ために、戦争が起こるたびに医学の技術は進歩しました。同様に、戦場での精神的な不安や戦闘で死ぬような思いをした経験から精神を病んでしまった兵士への対応や、戦地から戻った帰還兵や退役兵が精神に障害を負った場合の対応などが増えたことで「精神医学」や「心理学」は進歩し、社会における活動の場が広がってきたのです。

このように、「精神医学」や「心理学」は歴史的に精神障害や人間の精神の弱さに焦点があてられ研究されてきました。最近では、これとは正反対に人間の精神の強みに焦点を当てた「ポジティブ心理学」が注目されはじめています。
病気の人や病気になりかけた人を対象にするのではなく、健常者も含めてすべての人がより人生のやりがいや生きがいを感じ、「本当に幸せに生きるためにはどうしたらいいか」を追求していく心理学です。雑誌やテレビなどでも「メンタルタフネス(ストレス耐性)」や「ワーク・エンゲージメント」や「レジ
リエンス」などの言葉をよく目にするようになりましたが、これらがポジティ
ブ心理学のキーワードとなります。

1998年に初めて提唱され、最近注目されているポジティブ心理学ですが 実はこのポジティブ心理学の原点ともいえる考え方が、1970年代から1980年代にかけて健康社会学者を自認するユダヤ系アメリカ人のアーロン・アントノフキー博士によって提唱されています。それが「SOC」です。「スト
レス対処能力SOC」(山崎喜比古 他、有信堂)によると、SOCは Sense of Coherence(センス・オブ・コヒアレンス)の省略形で、直訳すれば 「首尾一貫感覚」、つまり、自分の生きている世界は首尾一貫しているという感覚のことです。

「ストレス対処能力SOC」の本の中で、SOCの発見・提唱に導いたヒントとなった研究について、次のように述べられています。アントノフスキー博士 は1970年代の初頭、第二次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下でユダヤ人の皆殺しが行われたポーランドのアウシュビッツ強制収容所から生還した経験を持つ女性とそうした経験を持たない女性を比べ、若い頃の極度に過酷な経験が更年期の心身の健康状態に影響するのかどうかを調べる調査をしました。すると、全員がトラウマとしてその影響を更年期まで引きずってもおかしくないほど極限的なストレスを経験した強制収容所からの生還者のうち、なんと3割もの女性たちが心身の健康を良好に保って、元気に更年期を迎えていたのです。
極限のストレスを経験しながら、心身の健康を守れているばかりか、その経験を人間的な成長や成熟の糧にさえして明るく前向きに生きている、こうした人たちに共通する特性は一体何なのか。アントノフスキー博士はその問題意識から調査や研究を進め、ストレス対処能力であるSOCを発見したのです。

さらに、SOCの定義として「SOCは、文字通りには、自分の生活世界はコ ヒアレントである、つまり首尾一貫している、筋道が通っている、訳がわかる腑に落ちるという知覚・感覚のことである。それは、次の三つの感覚からなるという。第一は、自分の置かれている、あるいは置かれるであろう状況がある程度予測でき、または理解できるであろうという把握可能感、第二は、何とかなる、何とかやっていけるという処理可能感、第三は、ストレッサーへの対処のしがいも含め、日々の営みにやりがいや生きる意味が感じられるという有意味感である」と説明しています。加えて、「生活世界に対するこうした確信の感覚や向き合い方をもつことができている人ほど、ストレッサーやストレスフルな状況に耐え、そのうえ、うまく対処することができる、つまり、ストレス対処能力が高いというのである」と説明しています。

次回は、SOCの三つの感覚である「把握可能感」、「処理可能感」、「有意
味感」について具体的に説明させていただきます(その2に続く)。

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