子供のころ、「大阪城を建てたのは誰か?」という問題に「豊臣秀吉!」と答
えると、「ブー、正解は大工さんです。」というやりとりがよくありました。
今回は、その大阪城築城のときのお話です。
ある役人が大阪城を建てるために材木を運んでいる大工に「おまえは何をしているんだ?」と尋ねました。大工Aは「見ればわかるだろ。材木を運んでいるんだ。つまらない仕事だけれど、これも生活していくためだ。」と答えました。
大工Bは「お役人様、私はお屋敷を建てる材木を運んでいるところです。仕事はつらいけれど、大工の仲間もたくさんいるし、私はこの仕事が好きなんです。それに家族も励ましてくれるんです。」と答えました。
大工Cは「何をしてるかって。お城を建てるための材木を運んでいるんだよ。そのお城には豊臣秀吉っていう偉いお殿様が住むらしい。俺はお殿様のために日本一のお城を建てるつもりだ。」と答えました。
この話には2つの視点があります。1つは仕事の目的意識です。大工Aは何の目的意識もなく、ただ言われるままに材木を運んでいます。大工Bは材木で屋敷を建てることはわかっていますが、その完成した姿を知らずに仕事をしています。大工Cはお城が完成した姿を夢見ながら仕事をしています。同じ「材木を運ぶ」仕事でも、目的意識によってつまらない仕事になったり、喜びや誇りを持って仕事ができるようになったりするのです。つまり、仕事には目的やビジョンを設定することが重要であるということです。
2つ目の視点は働きがいです。大工Aは生活やお金のために仕事をしています。
大工Bは仲間との人間関係を保つことと家族に認められることのためです。大工Cは自分の夢の実現のためです。働きがいについては個人によってさまざまな価値観があり、一概にどれがいいとは言えませんが、これを説明するには「マズローの5つの欲求段階説」をお話するのがわかりやすいと思います。
彼が唱えた欲求段階説は、「人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、底辺から始まって1段階目の欲求が満たされると1段階上の欲求を志す」というものです。そして、欲求の段階は@生理的欲求、A安全の欲求、B親和の欲求、C自我の欲求、D自己実現の欲求です。生理的欲求と安全の欲求は、人間が生きる上での衣食住等の根源的な欲求。親和の欲求とは、他人と関りたい、他者と同じようにしたいなどの集団帰属の欲求。自我の欲求とは、自分が集団から価値ある存在と認められ尊敬されることを求める認知欲求のこと。そして、自己実現の欲求とは自分の能力・可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を図りたいと思う欲求のことです。大工Aは@とAの欲求、大工BはBとCの欲求、大工CはDの欲求を「働きがい」にしていると考えられます。人間の成長過程やライフスタイルという意味では、一人の社会人として大工Cが最も高い次元の「働きがい」を持っていると言えるでしょう。
職場のリーダーの役割は、いかに自分の部下や後輩たちにこの「目的意識」と「働きがい」を持たせて仕事をさせるかです。「材木を運ぶ」という地味な作業でも「目的意識」と「働きがい」をしっかり持って仕事をすれば、仕事の満足度も生産性もまったく違ってくるはずです。職場のリーダーの方は、この2つの視点で自分および部下や後輩の仕事を今一度整理して、それぞれの仕事の満足度と生産性を高める努力をしていただきたいと思います。
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