今回は、第21回(2017年)手塚治虫文化賞の短編賞を受賞した「夜廻り猫」という漫画をご紹介します。
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「夜廻り猫」は、頭に猫缶を載せて半纏(はんてん)を羽織った強面の猫「遠藤平蔵」が人の心の涙をかぎつけて、その悩みにそっと寄り添う8コマ漫画です。作者は、連続テレビドラマでも放映された「ハガネの女」などの作品で知られる深谷かほる。元々は、彼女がTwitterで発表していた8コマ漫画で、そが口コミで人気を博し、2016年6月に講談社から単行本が出版されました。
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多くの話が「泣く子はいねが〜、泣いてる子はいねが〜」、「む、涙の匂い」、「もし、そこなおまいさん、泣いておるな、心で」、「どうした、わけを話してみさらんか」から始まります。悩んでいる人を探して夜の街をパトロールする遠藤平蔵が匂いから心の涙をかぎつけ、その人のもとを訪れて、ときにはその涙の訳を聞いて励まし、ときには見守り、ときには何も聞かずにその涙に寄り添います。ただ、あくまで寄り添って話を聞くだけで、悩みを解決することはしません。ときには、悩んでいる人の話を聞いてあげて、エサを要求することもあります。
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泣いている人々は仕事や恋愛や勉強や友達や家族との関係などで悩みを抱えて
います。病気を抱えていたり、いじめに悩む女子高生であったり、離婚したことを後悔していたり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からず悩んでいたり、逆に自分の幸せを人に分けてあげられないと悩んでいたりと、さまざまな悩みが8コマの中に凝縮されています。
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また、遠藤平蔵が寄り添うのは人間だけではありません。心が泣いている猫たちも彼がお手伝いをする対象です。猫たちも悩みを抱えて、遠藤平蔵と出会い、 彼の優しさに癒されていきます。そして、笑顔になって頑張る気力を取り戻していきます。片目の子猫「重郎」や夜廻り猫見習いの「ワカル」、夜廻りをする平蔵たちを陰から見守る片目の猫「ニイ」など、猫のキャラクターもこの漫画の人気を支えています。
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また、「主人公たちが猫」ということも、この漫画の「人を癒す効果」を高めています。人間はイライラしたりストレスがたまったりすると、自律神経の働きが乱れて血圧や心拍数が上昇します。多くの実験から、そんな状態で猫に触れると血圧や心拍数が下がることが医学的に認められています。猫と触れ合ったり、猫の体をなでたりすることで、人間に与える癒し効果は大きいようです。
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この漫画が人々の共感を呼ぶのは、漫画に描かれているのが常に弱者の視点だ
からです。日本政府が「一億総活躍社会」を目指している中で、日本で社会問題になっている貧困や病気や親の介護や孤独で生活に追われる登場人物たちは
実は「顔では笑っているが、心は泣いている」という世の中の背景が見事に描かれています。私は「カウンセラー」という資格を持っていますが、遠藤平蔵の「クライアントに寄り添う姿勢」や最近少なくなってきたと思える「おせっかいな声かけ」を見て、あらためてカウンセラーの社会的な意義と重要性を感 じました。今後も、職場で「顔では笑っているが、心は泣いている」という人を早めに発見してメンタルヘルス不調を減らしていくための研修や講演会を続けていきたいと思います。
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最後に、夜廻り猫第2巻のあとがき編にある、私がお気に入りの遠藤平蔵の言
葉をご紹介しておきます。「私の見たところ、寿命は1回笑うと1日のびます
!!今夜は3日程のばしてしまいましたよ。にっこり!」です(終)。
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