私の嫁は東京でカラオケスナックを経営していて、私もその店によく行きます。
店にはいろいろなお客様が来店されます。仕事の仲間で来る人もいれば、同級生や地域の仲間と一緒の人もいて、中には出会いを求めて一人で来店される人もいます。カラオケをたくさん歌う人もいれば、(カラオケスナックに来ているのに)全く歌わない人もいます。カラオケ歌わない人では、店の人や他のお客様に自分の近況を話している人、仕事や家庭のグチをこぼしている人、誰とも話さずに静かに一人でお酒を飲んでいる人など、それぞれの事情を持った人がそれぞれのスタイルで時間を過ごしています。私は店に行って、そんなお客様に接することで多くの気づきをいただいたり、人間関係やコミュニケーションの取り方など、多くのことを学ばせていただいています。また、自分自身のカウンセリング技術の向上にも役立っています
最近、お客様がカラオケを歌う前に、こんな言葉を口にすることが多いことに気がつきました。「この曲は初めて歌うから、うまく歌えるかどうかわからないけど歌ってみます」などという言葉です。これは、歌い終わったあとに歌を聴いている人から「歌が下手だな」、「音程が合ってないぞ」などと言われて、それが自分のストレスになることを事前に予測して、相手の言葉から自分のこころを防御するために発する言葉です。私はこれを「言葉の護心術」と呼んでいます。自分の身体を護る(まもる)ための「護身術」ではなく、自分のこころを護るための「護心術」です。
その他にも、上司と2人で来店した部下がお酒をもうこれ以上飲みたくないときに、上司から「もっと飲めよ」、「俺の勧める酒が飲めないのか」と言われることを予測して、「家に帰ると嫁に酒臭いと言われるので、あとはウーロン茶にします」と自分のこころを護っている人も多いです。「言葉の護心術」を身につけていない人は「(あなたと一緒だとお酒が美味しくないので)もうウーロン茶に変えます」という言葉で相手と対面してしまうので、相手からの言葉の攻撃をノーガードで受けてしまい、それが人間関係の悪化を招き、大きなストレスとなるのです。同様に、友だちとグループで来店した人が自分だけ先に家に帰りたいときに、友だちから「もう帰るのか」、「付き合い悪いな」と言われることを予測できる人は「(あなたたちと違って家族が大事なので)もう帰るよ」とは言わず、「明日は朝から大事な仕事が入っているので、そろそろ家に帰るよ」と「言葉の護心術」で自分のこころを護ります。
優秀なビジネスマンは「言葉の護心術」を仕事でも使います。上司や先輩社員が同席する会議で発言するときに「生意気なこと言うな」、「あいつは空気を読まないやつだ」と言われたり思われたりすることを予測して、「諸先輩方がお見えになる中で大変恐縮ですが、一つ提案させていただいてよろしいでしょうか」などと「言葉の護心術」を使います。また、仕事が忙しいときに上司から「私の代わりに会議に出てくれ」と言われて断りたいときには「指名していただいたのは大変うれしいですが、月末で仕事が一杯で・・・」、「課長もお忙しいのはわかっているのですが、お断りさせていただけませんか」、「今度ご指名いただいたときには、喜んで代理出席させていただきますから」などと上司からの攻撃から「言葉の護心術」でこころを護ります。
仕事やプライベートの人間関係に苦しんでいる人の中には「自分の行動は完ぺきにするものだ」、「自分の弱みを相手に見せてはいけない」、「周りの人に認められる人間になるべきだ」と教えられて育ってきたため、自分のこころよりも「自分のプライド」を大切にしている人が多くみられます。それで、相手を負かすためのコミュニケーションの取り方をしてしまい、それが周りの人との人間関係を悪化させ、相手からの言葉の攻撃をノーガードで受けてしまっているケースが多いと思われます。簡単に言うと、子供のころに親や先生から「これを着なさい」と与えられた服を大人になっても無理をして来ている状態で、窮屈で身動きが取れずに苦しんでいるのです。そのような人が人間関係を改善していくためには、その窮屈な服を脱いで自分のサイズに合った新しい服を着ること、つまり「自分のプライド」を捨てることが必要です。また、自分のプライドが捨てられない人は、その窮屈な服の上にもう一枚「防護服」を着ることによって、つまり「言葉の護心術」を使うことでも自分のこころを護ることができます。仕事やプライベートの人間関係に苦しんでいるけど、自分のプライドも大切にしたい人は是非「言葉の護心術」を身につけてみましょう
(終)。
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