私はお客様のストレス・マネジメント研修の中で、「自分のストレス耐性
(メンタルタフネス)を強化することによって、今までつらく思った仕事が
楽しくできるようになり、ビジネスの成功や生産性の向上につながる」とお
話しします。そして、「ストレス耐性を高めることによりビジネスで成功した例」として、プロテニスプレイヤーの錦織圭氏を挙げます。
錦織は2007年にプロに転向して、2008年にツアー初優勝、2011年には世界ランキング30位となりました。2012年から2013年にかけて、世界ランキング
10位入りを目指しますが、壁にぶつかります。そこで、2013年12月にマイ
ケル・チャン氏をコーチに迎えます。コーチに就任したマイケル・チャンは
錦織の技術面だけでなく、メンタル面でも指導をしています。
錦織が世界ランク上位のフェデラーとの試合前の会見で、「昔からあこがれ
ていたフェデラーと対戦できるだけで嬉しい」と言っていたことに対して、
マイケル・チャンは厳しく叱ったといいます。彼は錦織のメンタル面に大きな欠点があることに気づいたのです。それは、錦織が謙虚で礼儀正しい性格
のために、勝てない心理の落とし穴にはまっていることでした。つまり、
「対戦できるだけで嬉しい」という発言は対戦前から勝つ信念がなく、「負
けてもしかたがない」という気持ちで試合に臨んでいて、それでは勝てないということです。
このように、自分が困難に直面した場合や受け入れがたい状況にさらされた場合に、それによる不安を軽減させるために、無意識に言い訳をして自分を守ろうとする自己防衛的な心理的なメカニズムを「セルフ・ハンディキャッ
ピング」といいます。セルフ・ハンディキャッピングは自分自身に不利な条
件(ハンディキャップ)を設定することです。みなさんも経験があるかもしれませんが、学校の試験前に「昨日、体調が悪くて勉強できなかったんだ」
など友だちに伝えてから試験に臨むというのはセルフ・ハンディキャッピングの代表例です。これによって、もし試験で失敗した場合に「失敗の原因は外部要因(設定したハンディキャップ)であって、自分自身ではない」という言い訳をして自分を守ろうとする無意識的な自我の防衛機制です。
セルフ・ハンディキャッピングには、「私にはハンディキャップがあった」
と人に伝える主張によるセルフ・ハンディキャッピングと、行動によってハンディキャップを作るセルフ・ハンディキャッピングの2つがあります。主張によるセルフ・ハンディキャッピングは、前述の学校の試験の例でいえば、
実際には一生懸命に勉強したが「昨日、体調が悪くて勉強できなかったんだ」
と主張をして試験の結果が悪かったときに自分を守るというタイプで、錦織
のように謙虚で礼儀正しい性格に多いようです。行動によるセルフ・ハンディキャッピングは、「もし、体調が万全で一生懸命に勉強したのに試験の結果が悪かったらショックでプライドも傷つく」と考えて、本当に勉強をせず
に試験に臨み、試験の結果が悪かった場合には「勉強をして全力を出していれば結果が良かったかもしれない」と思い込むことによって自分を守ります。
こちらは、どちらかというと自尊心が高い人に多いと思われます。
マイケル・チャンは錦織に「勝てない選手はもういないと思え!」と言い続
けたそうです。そして、錦織は2014年に念願の世界ランキングトップ10入
りを果たし、全米オープンで準優勝しました。彼がこの全米オープンの準決
勝前にインタビューで言った言葉「勝てない選手はもういない」は2014
ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされました。
最後に、私がストレス・マネジメント研修でお話ししている話をもう一つ。
「日本の靴メーカーA社とB社がアフリカに進出して靴を売ろうとしたが、
まずは調査員に『アフリカで靴が売れるか』を調査に行かせた。A社の調査
員は調査結果を社長に報告した。『社長、ダメです。アフリカの多くの人は
靴を履いていません。行っても売れません』と。B社の調査員は『社長、す
ごいことを発見しました。アフリカの多くの人は靴を履いていません。もし、
全員に履かせることができたら、すごい売上になります。』と報告した。ど
ちらの調査員がビジネスで成功すると思いますか。」・・・(終)。
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