先日、横浜市のみなとみらいにある重要文化財「初代日本丸」を見に行きました。日本丸は日本の商船学校の航海練習船として、1930年(昭和5年)に兵庫県神戸市の川崎造船所で建造された帆船(はんせん)です。太平洋を中心に航海し、その美しい姿から「太平洋の白鳥」や「海の貴婦人」などと
呼ばれていたそうです。
帆船といえば、現在でも使われている小型のヨットが頭に浮かびそうですが、
私は「ピーターパン」や「小さなバイキングビッケ」などのアニメから映画の「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「グーニーズ」まで、海賊が乗っている船をイメージします。日本丸を見て、子供のころに海賊船に憧れていた自分を思い出しました。
帆船とは、船体の中心線上に垂直に立てたマストに帆(ほ)を張って、その
帆が受ける風の力を利用して走る船です。帆船が進む原理としては、基本的
には追い風の力を船の動力に得ることで風下方向に進むことになりますが、
風に対する帆の角度を変えることで揚力を生じさせ、この揚力を使って前に進むことで、希望する方向に進むことができます。また、少しずつ形や大きさの違う帆を張ることによって、追い風のときだけでなく、向かい風のときでも前に進むことができるそうです。このように、帆船は人間に例えると
「心臓」であるマストから帆に血液を送ることによって、自分が行きたい方
向に船体を動かしているのです。
時には台風や荒れた海での航海もありますが、そんなときに帆を揚げているとマストに力がかかりすぎてマストが折れる危険性が高まるので、風が強いときは帆を降ろして、風がおさまるのを待ちます。いずれにしても、帆船で
長い航行を続けるためには、帆を支えているマストがどんな強い風が吹いても曲がったり折れたりしないことが必要です。逆に、丈夫すぎる重厚なマストを設置すると、ちょっとした風で船のバランスが崩れて、転覆の危険が高まります。マストには「丈夫さと船の安定性」という相反する二つの機能が
求められるのです。
このように、帆船はマストがあることで航行が不安定になることがあるため、船のバランスを取るために船底に重りになる荷物などを積み込んでいます。
船が転覆しないように船のバランスを保つために積む荷物をバラスト(底荷)
といいます。帆船だけでなく、タンカーなどの船でも荷物を降ろした後の 帰りの航行では船のバランスをとるために、わざわざ船底のタンクに海水を入れるそうで、「バラスト水」と呼ばれています。当然ですが、バラストを積むことにより船の重量は増えることになり、船の航行スピードは落ちることになります。でも、安全に目的地まで航行していくためには、バラストを積むことが必要になるのです。
さて、船の航行を人間の行動に例えると、私たちは自分の体にマスト立てて帆を張って、それぞれの目標に向かって「できるだけ早く目標に到着するためにどうしたらいいか」を考えながら行動しています。ところが、目標に向
かって進んでいく中で、嵐のような様々な問題に遭遇します。そのような中
で自分の体にバラストを積むことによって、目標に向かうスピードを落とし
て、ときには一度止まって、心配や不安や苦痛を抱えながら目標に向かっていくことになります。でも、そのとき感じた心配や不安や苦痛は自分を成長させるために必要で、目標を達成したときに自分の感じた心配や不安や苦痛を克服したことで「一回り大きく成長した自分」に出会うことができます。
つまり、私たちが人生の中で多くの目標に向かっていくためには、マストと
帆だけではなく、バラストを積むことによって心配や不安や苦痛などを克服
することが必要不可欠なのです。最後に、ドイツの哲学者ショーペンハウア
ーの名言を紹介します。「底荷のない船は、不安定でまっすぐに進まない。
一定量の心配や苦痛・苦労は、いつも誰にも必要である。」・・・(終)。 |