アメリカにジレットという名のセールスマンがいました。彼はお客様に不快
な思いをさせないように毎朝きれいに髭(ひげ)を剃っていましたが、ある朝、急いでいて顔を切ってしまいました。困った彼は「安全で早く剃れるかみそりが欲しい」と切実に考えるようになり、ついに自分で「安全かみそり」を考案したのです。ジレットの安全かみそりは商品化され、たちまち世界中に広がって、彼は巨万の富を手に入れました。
ウォーターマンは保険の勧誘員でした。あるとき、大切なお客様の前で契約
書を記入していたときインクがこぼれて書類をだめにしてしまい、叱られて
契約をもらいそこなってしまいました。困った彼は契約時に失敗をしたくな
い一心で、ペンの研究に没頭するようになります。その結果、発明されたの
は先が2つに割れていてインクがしたたり落ちないペンです。このペンも、
また世界に知られて今日まで使われ、ウォーターマン万年筆に彼の名が残る
ことになりました。
ネジの頭には昔から溝が1本しかありませんでした。いわゆる「マイナス・
ネジ」です。そのために、ねじ込んでいる途中でこの溝が潰れると、それ以
上ねじ込むことも抜くこともできなくなって、困ったものでした。「それなら、溝を二本にすればいいじゃないか」と思いついたのが、自分もさんざんマイナス・ネジに困らされていたフィリップという男でした。そうやって誕生したのが、従来の溝と直角に交わるもう1本の溝を持つネジ、いまどこででも使われている「プラス・ネジ」です。
いつも羊番をしているジョゼフはのんびりと本を読んでいました。しかし、
ジョゼフが羊から目を離している間に羊の群れは柵を破って隣の畑になだれ
込み、野菜をすっかり踏み荒らしてしまいました。当時は木の柵であったため、羊が簡単に柵を壊すことも多く、羊飼いたちは困っていました。もちろ
ん、ジョゼフは主人にこっぴどく叱られましたが、叱られながらよくよく柵を見てみると、バラの木が植えてある所だけが壊されずに残っていました。
羊はバラのトゲを避けたのです。これにヒントを得てジョゼフは「鉄条網(有刺鉄線)」をつくりました。一介の羊飼いであったジョゼフは、この鉄条網で巨万の富をものにしたのです。
ジレットもウォーターマンもフィリップもジョセフも、困ったのが発明のきっかけでした。私たちの仕事や生活の中でも、毎日のように困ったことが起きています。そんなとき、困ったことをストレスに感じて不機嫌になったり、腹を立てたりすると、せっかくのチャンスを逃してしまいます。困ることは誰もが経験することです。困ったときには、まずは「どこからどうやって困った状態になったのか」を考えると、ヒントが見えてきます。そして、困ったことを「チャンスだ!」と思えば頭が活性化し、いいアイデアが浮かぶことがあります。 「困った」をストレスとしてではなく、仕事や生活のエネルギーに感じることができれば、人生は楽しくなるかもしれません。
私は困ったときには「CHA・CHA・CHA(チャチャチャ)」とつぶやきます。困ったことをChance(チャンス)と受け止め、困ったことをアイデアにChange(チェンジ)して、アイデアの実現にChallenge(チャレンジ)していくことです。みなさんも、日常自分が困ったことをアイデアにしてみたらどうでしょうか。みなさんが困っていることはきっと他の人も困っています。まずは、困ったら「CHA・CHA・CHA」とつぶやいてみましょ
う(終)。 |