今、銀行はほとんどATM(現金自動預け払い機)による取引が主体となり、
夜間でも日曜日でも簡単に預金が引き出せるようになりました。そんな便利
な時代ではなかった頃の話・・・。
ある主婦が近所の銀行にご主人の預金を引き出しに行きました。頼まれたものの、銀行に行くのは初めてだったため、不安な気持ちでいっぱいでした。
銀行に入ると、月末だったこともあって、5つある窓口はどこも行列になっていました。その主婦は、どこに並べばいいかわかりませんでしたが、「時間もあることだし、とりあえず一番右の列に並んでみよう」と列に加わりました。自分の順番が来たので通帳を出し、「預金を引き出したいのですが」と言うと、行員が「お客様、こちらは隣になります」と左を指差して言いました。はじめに聞かなかった自分が悪いと思い、その主婦はとなりの列に並び直しました。そして何分か経って自分の順番になり、「預金を引き出したいのですが」と言うと、また「お客様、こちらは隣になります」と言われました。しかたなく、その主婦はまた隣の列に並びました。ようやく自分の順番が回ってきて、「預金を引き出したいのですが」と言うと、また「お客様、こちらは隣になります」と言われました。少し腹が立っていましたが、その主婦は右から4番目の列に並び直しました。そして、自分の順番になり、ようやく預金が引き出せると思った瞬間、行員に「お客様、こちらは隣になります」と言われました。「初めから一番左の窓口だって言ってよ!」と心の中で思いながら、その主婦は一番左の列に並びました。もうすでに銀行に来てから1時間以上が経過していました。最後の列で順番が回ってきた主婦が「ここの窓口で間違いないわね!」と預金通帳を差し出すと、その行員は冷静に「お客様、こちらは隣になります」と言い、さらに左を指差しました。
その主婦はさすがに怒りました。「もう左に窓口なんかないじゃない!」と主婦が叫ぶと、銀行内のすべての人が手を止め、注目しました。「どうして、どこの窓口でも預金が引き出せないの!」とその主婦が言うと、その行員は笑顔で答えました。「お客様、こちらの預金通帳は隣の銀行のものです。私共のお隣にある銀行でお引き出しください。」・・・。
今のは笑い話ですが、みなさんは誰かとの会話のなかで、「自分ではしっかり伝えたつもりなのに、なんでうまく伝わらないんだろう」、「どうして思うように言葉が伝わらないんだろう」と思ったことはありませんか。このような場合、あなたが「言葉足らず」になってしまっている可能性があります。
言葉足らずとは、「十分に説明できていないこと。また、そのさま」(デジタル大辞泉)という意味で、「言葉足らずな人」といった使い方をします。
要するに、本来するべき十分な説明ができていないという意味です。説明に
必要な言葉が足りていないのです。言葉が足りていなければ、相手に会話の意図が伝わらなくなってしまいます。
言葉足らずな人は、仕事においても相手に思わぬ誤解を招いたり、大きなミ
スを起こしたりして、周りの人との人間関係が悪くなっていることも少なくありません。誰かに仕事を依頼するときも、依頼した側が言葉足らずだと受けた側が間違った理解のまま仕事を進めてしまい、仕事を依頼した側と受け
た側で理解が異なってしまうことで、お互いのミスコミュニケーションに発展してしまうでしょう。これは言葉足らずの人がよく起こす失敗です。もし、「私は言葉足らずかも・・・」と感じている人は自分のコミュニケーションに対する認識を変える必要があります。
言葉足らずになってしまうのは、自分の表現力や相手の理解力への過信原
因となることが多くなっています。自分の表現力が高いと過信して、「こだけの説明をしたのだから、相手は自分の意図を理解してくれたはず」と勘違いしていたり、相手の理解力を見誤って、「こう言えば相手も理解できるだろう」と無意識に、または意識的に思い込んだりするため、肝心なことを伝え忘れていたリ、相手の理解度を自分に合わせてしまって説明を省いてしまったりして、結果的に誤解を生んでしまうのです。
言葉足らずを克服するためには、「自分が言葉足らずである」という認識が
重要です。自分が言葉足らずであることを常に念頭に置き、そうならないためにいくつかの点を意識して会話をすることが大切です。まず意識すること
は、相手に察してもらえることを期待しないことです。次に、「主語から話す」ことを意識することです。言葉足らずの人に多い話し方の特徴に、主語が抜け落ちているということがあります。主語がないことで、相手はその会話の軸を見失ってしまうのです。会話の焦点をはっきりさせるためにも、伝えたいことを事前に整理して、「誰が」、「何が」という主語をきちんと話すことを心がけましょう。
また、言葉足らずな人は「適切な言い回しを知らない」「そもそも伝える言葉の種類(ボキャブラリー)が少ない」などが原因となっていることも少なくありません。物事を説明するのに適切な言葉選びができず、うまく伝わらないのです。誰が聞いても伝わるような話し方を心がけ、単語の知識や言葉の意味を普段から勉強しましょう。そして、自分自身の話し方や説明の仕方が「相手にとって最適かどうか」という配慮をしながら話しましょう(終)。
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