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スジ・ピカ・イキ

彼が中学生時代のある寒い冬の日でした。戦時中で燃料が無く、寒い台所で手がかじかんで、一升瓶のお醤油を卓上差しへ移し変えることに苦労している母のうしろ姿を見かねて「一升瓶を立てたまま自動的に移しかえることができないだろうか」と考え、発明したのが「醤油チュルチュル」でした。こ の「醤油チュルチュル」という名前自体は現在あまり使いませんが、現在 「灯油ポンプ」(正式には「石油燃焼器具用注油ポンプ」という長い名前だ そうです)として世界中で使われているヒット発明です。この「灯油ポンプ」 を発明したのが、「ドクター中松」こと中松義郎氏です。

先日、彼の著書「ドクター・中松の発明ノート」(PHP研究所)を読みま した。中松氏は5歳の時に発明をして以来、現在までにエジソンを大きく超 える3000件以上の発明をしているそうです。彼は、自分の経験から発明の3要素を見出しました。それが「スジ・ピカ・イキ」です。「スジ」とは、まず理論的に正しくなければならないということ、「ピカ」とは、従来の考え方の延長線上にはないヒラメキが必要だということ、「イキ」とは、社会に生きる、つまり世の中で実際に広く活用されること、の3つです。つまり、研究によって「スジ」つまり論理性を追求し、ヒラメキにより「ピカ」つまりアイデアを見つけ出し、そして開発によって「イキ」つまり実用性を証明していくというのです。

今回は数多い中松氏の発明の中で、彼が新入社員時代に、この「スジ・ピカ・イキ」の3要素により発明したある装置についてご紹介します。彼は東大 を出て三井物産に入社しました。配属先は機械部航空特機課でした。当時の月給は6700円ぐらいだったそうです。彼を含めた新入社員何人かが、上司からヘリコプターを売ってこいと命令されました。新入社員の中には親類や学校の先輩のコネクション(コネ)を使って営業する者もいたそうですが、彼にはコネもなく、そのような方法は自分には不向きであると考えていました。ところが、彼は1ヶ月ほどでヘリコプターを売ってきました。当時、ヘ リは一機が2500万円(今なら6億円)ぐらいでした。どういう売り方をしたのしょうか。

中松氏は毎日ヘリの発着場である東京の木場3丁目に通いました。彼はまず現場に行って、ヘリの研究つまり「スジ」を追求したのです。そして、毎日 通ううちにあることに気づいたのです。ヘリの離着陸を見ていると、いつも 上マブタに砂礫(されき)がついていたのです。「なぜだろう」と中松氏は考えました。これは、ヘリが地上に接近すると、猛烈に風をまき起こし、それで下から吹きあげられた砂礫がくっついたのでした。そこから彼のひらめきによる「ピカ」がはじまります。

ヘリの機能はA地点からB地点へ人や物を運ぶこととされています。その他 に、もう一つ、地上に接近すると風をまき起こします。この機能を何かに使えないか。だんだん考えていって、ついに農薬の撒布にどうかと思いついた のです。当時、農薬はセスナ機で上空から撤布していました。これだと葉の 表面や茎には薬がかかりますが、虫や卵のついている肝心の葉の裏側に薬が届きません。これでは効果は半減です。そこで中松氏は考えました。ヘリは地上へ接近すると、風をまき起こし、葉っぱを裏返しにする。そこへ農薬
をかければ効果満点ではないか。これが「イキ」つまり実用性です。そして、 彼は「農薬撒布装置」を考案して、ヘリコプターと一緒に農協に売りつけることに成功したのです。見事に「スジ・ピカ・イキ」の3要素を用いています。

さて、実は「スジ・ピカ・イキ」は発明だけでなく、私たちの悩みの解決にも使えます。まずは、悩みとなっている解決したい課題を見つけて、「何が問題なのか」を分析します。これが「スジ」です。次に、「解決する方法はあるか」と悩みを解決する手段を考えて、ヒラメキを得ます。これが「ピカ」です。そして、「その解決方法は効果があるか」と悩みの解決方法の実用性を検証します。これが「イキ」です。この「スジ・ピカ・イキ」ですべての悩みが解決するわけではありませんが、みなさんが抱えているいくつかの悩みの解決に効果があると思います。ぜひ「スジ・ピカ・イキ」を使うことで自分の悩みを解決して、イキイキと楽しく暮らしていきましょう(終)。



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