安全JAWSちゃんのハートLetter
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こだま運動

今回は、私が以前に「村おこし」の成功例として講演会で聞いた「こだま運 動」のお話を紹介します。栃木県芳賀郡茂木町の山内元古沢地区にある「ゆずの里かおり村」会長の石河智舒(いしかわ とものぶ)さんから聞いた話です。

茨城県境に近い元古沢は、昭和40年代はじめまでは薪炭、葉たばこの生産が盛んな豊かな地域でしたが、昭和40年代後半からはそれらの生産が斜陽化し、働き手の大部分が外に働きに出るようになりました。それにつれて、田畑や山林の荒廃も目立つようになり、現在ではわずか16戸、ほとんどが兼業農家で人口は約50人です。そこで生まれ育った石河さんが、空いた畑にゆずの木を植え「ゆずの里かおり村」を作ろうと突然決心したのは、 1984年(昭和59年)でした。「村おこし、なんて言葉も知りませんでした。目的はただ一つ、息子に嫁を見つけてやりたかったからなんです」と石河さんはいいます。当時石河さんの長男は高校を卒業したばかりでしたが、周囲を見回すと、どの家でも跡取り息子に嫁の来手がありません。考えてみ れば、村に活気がなく、田園に美しさがありません。これでは娘さんが魅力 を感じなくなるのも当たり前でしょう。

「それなら、自分の手で田園を美しく、活気のあるところにしよう」と石河さんは思いました。そうすれば娘さんは残る。あるいは、よそからも来てくれるだろう。それで、まず「ゆず」で一面黄金色にしようと思いたったのです。「こんなきれいなところに住んでみたい」と若い娘さんにそう思わせたい一念でした。植えた300本のゆずは無事に冬を越し、元気に育ち始めました。そこで、石河さんは地区内の兼業農家を「どうだ、みんなできれいなゆず村を作らねえか」と口説いて回りました。初めのうち、「どうせ、ゆずなんて売れっこねえ、駄目だっぺ」といっていた地区の人たちも、あまりの石河さんの熱心さに負けたかたちで、ゆずを植えるようになりました。こうして1986年(昭和61年)に元古沢の農家13戸全員の参加で、一度は荒れた畑に2860本のユズが植わり、「八溝ゆず生産組合」が結成されました。ここから、石河さんが「こだま運動」と名付けた村ぐるみの村おこしに向けての取り組みが始まります。

山あいの元古沢では「みんなでやっぺー」と叫ぶと「やっぺーやっぺー、頑 張っぺー」とこだまが返ってきます。これは「元気のもと」の良いこだま。
しかし、農家の口癖の「こまった」「だめだ」「まいった」のこだまは「減気のもと」で、悪いこだまです。たいしたことないと思うかもしれませんが、この言葉を口にするだけで本当にだんだん元気の気が減ってきます。人も寄りつかなくなります。ゆずの里ではこの「こまった」「だめだ」「まいった」の3つの言葉は禁句にすることにしました。そして、この運動は「こまった」「だめだ」「まいった」の頭文字をとって「こだま運動」と名付けられたのです。「こまった」「だめだ」「まいった」はどれも弱音を吐くときの「マイナスの表現」です。新しいことをやろうとするのに、マイナス思考になっていてはいけません。「やっぺ、頑張っぺ」とプラス思考にならなければ成功はおぼつかないのです。「それに『こまった』『だめだ』『まいった』ばかりじゃ暗くて、ますます嫁が来なくなってしまいます」と石河さんは話しています。

1988年(昭和63年)、待望のゆずが実ったのを契機に「ゆず祭り」を開催することになりましたが、地図にも載せていない過疎の集落に人を呼ぶには、ユニークなイベントを企画してマスコミに取り上げてもらうしかないと考え、「大ボラふき大会」を開催しました。企画は大当たりし、来るのは郵便局員くらいといわれた戸数16戸の集落に500人もの人々が訪れ、賑わい、集落に活気が戻りました。また、1993年(平成5年)には年会費1万円でゆずオーナーを募集し、「ゆずの里かおり村」を開設し、石河さんが会長になりました。会員になると、ゆずの木1本のオーナー資格ができ、その木はもぎ取り自由です。シーズンには、東京、千葉、埼玉あたりから車で来てくれる家族連れが多くなりました。今では、行き止まりの小さな集落に1万本のゆずが植えられ、年間2万人の観光客が訪れています。一時活気の失った集落は、今では「ゆずの里」として全国的にも知れ渡り、高齢者が生き生きと暮らす元気な集落となりました。そして・・・石河家の長男にも「ゆずの里かおり村」ができて3年後に、元気なお嫁さんが茨城から来たそうです。

以上が講演会の内容ですが、みなさんも職場や家庭において、「こだま運動」をやってみましょう。誰かが「やってみよう」と叫ぶと、「よし、やろう」「がんばろう」というこだまを返す。また、「こまった」「だめだ」「まいった」の3つの言葉は禁句にする。そうすれば、「こまった」「だめだ」「まいった」の3つの言葉以外にも「やめておこう」「無理だ」「できません」などのマイナスの言葉もなくなり、いつもプラスの言葉が飛び交う、今以上に楽しく明るい職場や家庭に変わると思いますよ(終)。




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