何かをしたいという願いを「欲求」といいます。人間は常に欲求を持ち続ける生き物
ですが、人間はある段階の欲求が満たされると、次の欲求を求めるようになります。
アメリカの心理学者・アブラハム・マズローは欲求を五段階に分け、人はそれぞれ下
位の欲求が満たされると、その上の欲求の充足を目指すという欲求段階説を唱えまし
た(詳しくは「マズローの欲求段階説」でweb検索してください)。次の話は「欲求
には段階がある」といういい例です。
アメリカである人が本を出しました。その題名は「誰でも美しくなれる」でした。と
ころがさっぱり売れません。返品の山です。そこで考え直して、表紙を取り替え、題名を「あなただけが美しくなれる」にしました。内容はまったく同じです。そうした
ら今度はあっという間に売り切れてしまったそうです。
「みんなと一緒がいい」という欲求が満たされると、今度は「みんなと差をつけた
い」という欲求が生まれるのです。だから、人間は次から次へと欲求を持ち続けるこ
とになるのです。次々と自分の欲求が満たされればいいのですが、そうはいかないと
「欲求不満(フラストレーション)」になります。欲求不満は人間のこころに様々な
影響を与えます。
欲求不満を押し殺して優等生を続け、その結果「こころの病」になってしまうことが
あります(これを「過剰適応」といいます)。逆に、欲求を満たすためにモノを盗ん
だり、ストーカー行為をしたりする場合もあります(これを「不適応行動」といいます)。また、欲求不満を弱めるために「上司が悪い」「会社が悪い」「世の中が悪
い」などと悪口を言って、こころの安定を保とうとする心理的作用が働いたりもします(これを「防衛機制」といいます)。
いずれにしても、人間の欲求不満を解消するのはとても難しく、今でも各界で研究が
進んでいます。最後に、「欲求不満」という心理の難しさをあらわしたユダヤの笑い話をお伝えします。みなさんはこれを聞いてどう思われますか。
A君とB君が一緒に食事をとった。二人とも仔牛のカツレツを注文した。ボーイが一
つの皿に、大きなカツレツと小さなカツレツをのせてきた。「取って下さい」とB君
がすすめた。「お先にどうぞ」とA君が言った。長いこと譲り合ったあげく、B君が
先に取ることになり、大きなカツレツを自分の皿に取った。当然A君は小さいほうを
食べた。食べ終わるとA君は、腹をすえかねたように言った。「はっきり言って、B君、私が先に取るとしたら、小さいほうにしたでしょうね」。B君は、訳が分からないというように、A君の顔を見つめた。「じゃ、なぜ文句をいうのですか。あなたはお望みどおり、小さいほうを取ったわけじゃありませんか?」。
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