小学校に通っていた子供のころ、下校時に急に雨が降ってくるとお母さんが家から傘を持って迎えに来てくれました。でも、お母さんが持って来てくれた自分の傘をさすのではなく、お母さんと一緒に相合傘で帰るのが楽しみでした。時には友達と一緒に雨やどりをしながら相合傘で帰ったり、好きな女の子と相合傘で帰ることを夢見たりと、相合傘にはたくさんの思い出と夢がありました。
ところが、現在では相合傘を禁止している小学校があるそうです。校長先生に事情を聞くと、「ある母親が天気予報で降水確率が高いので子供に傘を持たせたところが、子供がずぶ濡れで帰ってきた。傘を持たせたので不審に思って聞くと、傘を持ってなかった友達を入れてあげたので濡れたという。そこで、母親は学校に、『うちの子が、どうして傘を持っていない子の犠牲にならなければならないのですか。天気予報にちょっと注意していれば、傘の用意が必要かどうかは分かるのだから、傘を用意させない家庭が悪い。そんな子のために、うちの子がずぶ濡れになって、風邪を引いたら学校は責任を取ってくれるのですか』と怒鳴り込んでくる。そんな母親が何人もいたために、相合傘を禁じている」と言うのだそうです。
この話を聞いてみなさんはどう思われますか?反対の方も賛成の方もいるかとは思いますが、この考え方は、「試験に落ちたり、リストラで職を失ったのは、本人の勉強不足、努力不足で、本人に原因があるのだから切り捨ててしまえ」というドライな考えと根は同じ思想です。確かに、現代は自己責任の時代です。自分のことは自分の責任で行うことが大切だとは思いますが、同時に21世紀は共生(共に生きる)の時代です。「人にやさしく、地球にやさしく」をキーワードに、環境保護やボランティア活動がますます活発に行われる時代です。そんな時代にこのような家庭教育が行われていることは問題があると言わざるを得ません。
だって考えてみてください。この母親と学校の対応によって、この子供の「思いやりの心」はどこに行ってしまうのでしょうか?人を思いやる心を育むことによって、大人になってから起こるさまざまな困難な出来事を前向きに考えて乗り越えていく「ストレス耐性(メンタルタフネス)」を身に付けることができるはずであるのに・・・。豊かな時代の不幸だと言ってしまえばそれまでですが、こんな心の貧しい社会で生きているのかと思うと少し悲しくなります。このコラムをお読みのみなさんがこんな悲しい考え方をすることはないと信じていますが、私はみなさんにいつまでも相合傘の思い出と夢を大切にしていただきたいと思います。
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