古代エジプトの遺跡の中から見つかった象形文字を解読してみたら、「近ごろの
若い者はなっとらん」という文章があったそうです。いつの時代も年長の人間
が若者のやり方に眉をひそめるのは変わらないようです。今回は、そんなグチ
を毎日のようにこぼしてストレスをためている中高年の方々に贈るお話です。
昔、イギリスにトーマス・パーという農民がいました。トーマス・パーの若
い頃のことはあまり知られていませんが、彼は若い頃から農業が好きで、遊び
や女性には一切手を出さずに農業という仕事に専念していました。そして
私たちで言う「定年」の60才を過ぎても農業をやめることなく、80才近くに
なっても一人で黙々と仕事に励んでいたそうです。
ところが、その頃はじめて仕事以外のものに興味を持ったようです。それが
「女性」でした。彼は80才で初めて結婚して、一男一女をもうけました。
ところが、彼が112才の時にその妻が亡くなってしまいます。しかし、彼は
122才で再婚、一女をもうけたのです。そして、彼が151才の時、トーマス・
ハワードという伯爵がこのパー爺さんの噂を耳にし、彼をロンドンに連れて
行き、英国王のチャールズ1世に会わせようと思いたったのです。ロンドン
までの2〜3週間の旅の間、旅先でパー爺さんを一目見ようと多くの群衆が
集まり、立ち寄る先々で歓迎され、接待を受けたそうです。ここで、彼に
新たな夢中になるものができました。それは「ぜいたく」でした。
それからのパー爺さんの生活はガラリと変わりました。食事も何もかも
がぜいたくになってしまったのです。彼は英国王から長寿を賞され、終身
年金を受ける身となりました。しかし、人間とは皮肉なもので、それから
の彼はまったく働かずに毎日飲み食いざんまいの荒れた生活をするように
なり、それがきっかけで彼は「胃かいよう」になってしまい、152歳で亡く
なってしまったそうです。
人間は年をとれば確かに体力は衰えますが、気持ちの持ち方によっては、
気力は衰えるどころか充実していくものなのです。そして気力さえ充実し
ていれば、100才を超えても楽しく生活ができるのです。トーマス・パー
も151才までは「農業」という仕事に夢中でした。また、きっと死ぬ直前
まで「女性」に夢中だったのだと思います。仕事でも女性でも「何かに夢中に
なること」によって人間は年をとらないのかもしれません。
「近ごろの若い者はなっとらん」などとグチを言っても何も始まりませんし、
何も変わりません。逆にトーマス・パーに比べれば中高年の方々もまだまだ
「近ごろの若い者」なのかもしれません。私はみなさんにも彼のように仕事
や仕事以外のことに対して気力を充実して、健康で長生きされることをお勧
めします。ぜひ、今一度気力を振り絞って、何かに夢中になってみましょう。
ちなみにトーマス・パーにちなんで、長生きのお酒として生まれたのが、
スコッチウィスキーの銘酒「オールド・パー」です。日本には150年程前に
岩倉具視が欧米視察のお土産に持ち帰ったとされています。もし、ウィスキー
が好きな方でしたら、トーマス・パーの長寿にあやかって「オールド・パー」
を飲んでみてはいかがでしょうか。(終)
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