今回は、私の愛読書である上前淳一郎さんの「読むクスリ 〜人間関係のストス解消に〜」に載っている話を紹介します。
東証一部に「株式会社ミツバ」という自動車用電装品の大手企業があります。
ミツバはソニーやホンダと同じように昭和21年に会社を興し、まずは自転車用の発電ランプを手がけました。タイヤの回転で小さなダイナモを回して電気を送る、おなじみの前照灯です。当時は自転車が通勤・通学や買物の欠かせない足でしたので、同社の発電ランプは引っ張りだこでした。ところが、創業3年目の昭和23年夏、順風満帆だったランプの売れ行きが突然ガクンと落ち込みました。
ほとんど注文が入らなくなったため、工場は毎日午後2時半には終業ということになってしまいました。なぜそんな事態になったのか。
その年の5月、日本で初めての「夏時刻制」が採用され、全国の時計の針がいっせいに1時間進められたのです。そのおかげで、残業をして夜8時ごろ自転車で帰宅するということになっても、実際は夜7時ですので周囲はまだ明るい。つまり、ランプが要らなくなったのです。それで、夏時刻制が終わる9月までの間、ランプを買う人がいなくなってしまったのです。夏時刻制は4年間続きました。これが、現在日本で導入の検討が進められている元祖「サマータイム」です。
サマータイムとは、日の出時刻が早まる夏の時期に時計の針を1時間早め、日の出から1日の活動開始までの時間を減らす制度です。サマータイムの導入により、朝は気温の低い早朝に活動がはじまるので冷房費用が削減され、また、夕方は明るいうちに勤務時間が終わるために、照明費用が節約できます。また、夕方の明るい時間が増えることで、私たちの行動の選択肢が広がることになります。つまり、明るい時間が増えることで余暇の時間も増えるということです。
しかし、サマータイム制度については、戦後一時施行されたがすぐ中止になった経緯もあり、その導入には慎重な意見も多くなっています。まず、サラリーマンにとっては出勤時間が1時間も早まって、慣れるまでは大変でしょう。また、体調不良を起こしたり体内時計が狂ったりして、睡眠不足を招くことなどが心配されています。しかしながら、サマータイム制度は現在、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中では、日本、韓国、アイスランド以外の全ての国で導入されています。
また、今年は東日本大震災の影響でサマータイムの導入が議論されると思います。
いい意味で、私たち国民の一人ひとりが環境のこと、省エネルギーのこと、そしてなによりも仕事と生活のとのバランス(ワークライフバランス)をもっと考え、行動していく一つのきっかけにもなると思います。また、社会全体が24時間化し生活が夜型に移行する中で、睡眠環境の悪化をどうやって食い止めるかを考える機会にもなるでしょう。是非、皆さんもこのサマータイムに興味を持って、議論に加わっていきましょう。
ところで、その後「株式会社 ミツバ」はどうなったかと言うと、経営陣は新しい主力製品の開発を迫られ、その結果生まれたのが自動車用のホーンでした。昭和25年に朝鮮戦争が勃発してトラックが増産されたのも幸運でした。同社はホーンメーカーの大手にのし上がり、その間に培った技術力で成長していくことになりました。「今振り返ると、我が社が今日あるのはあの時サマータイムが採用されたおかげです」とミツバの現経営陣はみんなそう振り返ります。人生にはピンチはつき物ですが、それが、新しい成功をつかむビックチャンスになる可能性があることもあります。何事も前向きに取り組んでいくことが重要なようです。(終)
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